『東京カウボーイ』6/22（土）の上映後に、井浦新さん、藤谷文子さんの舞台挨拶を開催しました。

本作のストーリーは、井浦さん演じる効率至上主義の商社マン・ヒデキが出張先のアメリカ・モンタナのカウボーイ文化に触れ、自己を見つめ直していくというもの。藤谷さん演じるヒデキの上司であり恋人・ケイコとの関係性の変化も見どころのひとつです。

挨拶冒頭、井浦さんは漸く実現した当館でのリアル舞台挨拶について、藤谷さんは久々の神戸往訪の喜びをお話しされ、ともに元町映画館初登壇への思いを語られました。

ヒデキのように物事の考え方が変わった経験について、井浦さんは「デビュー時からずっと映画でキャリアを積むことに拘っていましたが、恩師の若松孝二監督に『仕事を選んでるんだろ、カッコつけてんじゃねーバカヤロー！』と言われたことがあります。若松さん曰く『俳優は色んな人間になれて色んな人生を生きられる特別な仕事だ。そんな貴重な仕事をしているんだから、自分で可能性を狭めないで来たもの(仕事)はなんでもやりなさい』と。そこからマインドが変わって、どんな仕事でも来た順番で全部受けていくというやり方に変えました。それが自分の俳優としての価値観を大きく変えた機会です」と、俳優業への姿勢についてお話しされました。藤谷さんは「自分のやっていることを分かっていると思ってしまうことが一番危険。アメリカでのオーディションは自分の知っている世界とは違いすぎてへこんだこともあります。世界を知ったかぶってはいけないんです」と、ご自身の13歳からの経歴を振り返られました。

本作の撮影がマーク・マリオット監督率いる米国スタッフチームによるものであることを踏まえ、日米の撮影現場の相違点について、井浦さんは「アメリカではスタッフによる声掛け文化の良さを再認識しました。日本の現場のいいところは技術者のレベルの高さ。予算も時間もなく作品を撮らなきゃいけない中でも根性論でできてしまうんです」と、アメリカ流の制作メソッドに加え、日本の高水準な撮影技術と制度化途上の現場労働問題を指摘されました。藤谷さんは「世界に行った人たちに非凡な才能があるというよりは、その環境におけば仕事内容は共通言語になって、どこの国でもやっていく方法があります」と、国内外におけるご自身の俳優・脚本業から鑑みた、国や部署を超えた映画制作の将来性を語られました。

役作りについて、藤谷さんは「役作りというよりも映画の中の世界観というのを考えていて。二人の女性（ケイコとペグ（演：ロビン・ワイガート））はフィクションとしての配置です」と、リアリティよりも世界観を追求した上で女性キャラクターが管理職にある意義を、本作で共同脚本を務められた観点から明かされました。井浦さんは「日本のサラリーマンは、格好の美意識や縦社会の伝統を持っています。それに加えて、効率主義や経済主義という社会自体をヒデキに投影させたいと思っていました」と、ステレオタイプに留まらない独自の役作りの真意を披瀝されました。

制作過程で嬉しかったことについては、「井浦新が出ると言ってくれたところがピーク（笑）。キャスティングの決定はモノクロに色が付くような一番嬉しい瞬間です」と藤谷さん。井浦さんは「企画当初から今作品を届けているこの瞬間まで、ずっとハイライトが続いています」と、本作に懸ける熱意をお話しされました。

本作の大きな魅力は、なんといってもモンタナの美しく雄大な自然風景。どこまでも空が続く“ビッグ・スカイ・カントリー”を、映画館の大きなスクリーンで体感されたい作品です。